肘部管症候群 (遅発性尺骨神経麻痺)

尺骨神経について 
頚髄から出た頚神経腕神経叢を経て、尺骨神経、正中神経、橈骨神経に分かれます。それぞれの神経は手指に向かって下降していきます。尺骨神経は腕(二の腕)の内側を下降し、肘の内側部で肘部管尺骨神経溝と線維腱膜から形成された管)を通り、さらに前腕内側を下降し、手首でギヨン管(豆状骨と有鉤骨鉤と靭帯で囲まれた管)と呼ばれるトンネルを通り、第4指・第5指に下降します。

尺骨神経の知覚枝は、第4指の小指側の半分と第5指の感覚を支配します。尺骨神経の運動枝は、手首と第4指・第5指の屈曲(曲げる運動)や骨間筋などの手の小筋肉の大半の運動を司ります。


肘部管症候群
何らかの原因で肘部管の内圧が上がると、尺骨神経が圧迫や牽引され神経麻痺を生じます。原因として肘を酷使する方やスポーツ野球肘など)、ガングリオンなどの軟部腫瘍によって発生します。
■遅発性尺骨神経麻痺
過去に肘周辺に外傷(ケガ)を経験し、その後(数年〜数十年かけて)徐々に神経麻痺が発生するものです。肘関節周辺の外傷(
肘関節脱臼上腕骨顆上骨折上腕骨外顆骨折橈骨頚部骨折肘頭骨折)などによる内反肘変形外反肘変形変形性肘関節症などで発生します。
症状
症状は肘部管症候群も遅発性尺骨神経麻痺も同様です。第4指・第5指の感覚異常(触った感覚がない、感覚が鈍い、ピリピリするなど)や痛みを訴えます。やがて指の筋力低下(摘まむ力が落ちたり、細かな作業が困難となるなど)を訴えます。鷲手(別名、かぎ爪変形)を認め、手指の筋肉が萎縮(やせる)し、第4指と第5指が変形して指が伸びなくなります。
診断
Tinel(チネル)の徴候(肘部管内で圧迫された尺骨神経を軽く叩くと、第4指、第5指へ痛みやしびれが放散します)を認めます。また尺骨神経領域の知覚障害や筋力低下(第4指や第5指の屈曲力や母指の内転力、手指の内転・外転力の低下)を認め、フローマンサインが陽性となります(母指と第2指で紙を摘まんで紙を引っ張ると、母指の内転力が低下しているため母指の第1関節が曲がってしまいます)

レントゲンでは特徴的な所見はありません。ただし、遅発性尺骨神経麻痺では変形性肘関節症や過去)の骨折、肘の内反変形、外反変形などを認めます。鑑別疾患(似たような症状を認める病気)に頚椎症性神経根症があります。詳細な情報には神経伝導速度検査筋電図、MRIなどが必要です。
治療
1)保存的治療
疼痛緩和に
アセトアミノフェン、炎症緩和に非ステロイド性抗炎症剤、神経代謝改善剤にビタミンB12製剤、感覚神経障害に神経障害性疼痛薬などを処方します。難治例には肘部管内に肘部管内注射を試みます。
2)手術的治療
症状が経過とともに進行する症例は手術が必要となります。術式は肘部管開放術(肘部管内で神経を圧迫している靭帯や筋膜、腱膜を切離する方法)や
尺骨神経前方移行術内上顆切除術などが検討されます。ガングリオンなどの腫瘤や軟部腫瘍であれば摘出術を行います。

 たはら整形外科